JC表紙デザインコンペ2010

受賞作品ギャラリー

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【大賞】屋宜久美子
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【準大賞】三上嘉啓
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【優秀賞】あつみけいこ
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【優秀賞】上田亜矢子
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【優秀賞】本間商人
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【佳作】伊佐皆子
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【佳作】池上淳
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【佳作】今井路子
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【佳作】黒川徹
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【佳作】野下悟司
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【佳作】村山智美

2010年度 JC(日本時間生物学会誌)デザインコンペ結果発表!

今年度の時間生物学会誌の表紙のデザインを,コンペとして広く公募しました。3月までに52名の方々から,計69点に及ぶ多数の応募を頂きました。力作をお寄せいただきました皆様に心より感謝申し上げます。
 審査は木本圭子氏(審査委員長・メディアアーティスト)を中心に,井上恵美子氏(アーティスト),および岩崎秀雄(編集委員コンペ担当)も加わり,長時間に亘って行いました。当初は優秀作2点および入選数点を選考する予定でしたが,下記の木本氏の講評にあるように力作ぞろいであったため,大賞1点(本号表紙),準大賞1点(次号表紙),優秀賞3点,入選作6点を選び,広く懸賞させていただくこととなりました。大賞の屋宜さんの作者の言葉,プロフィールは裏表紙をご覧ください。また,入選作は時間生物学会のホームページでも公開してあります。作者の言葉も併せて掲載してありますので,ぜひご覧いただければと存じます。(担当委員:岩崎秀雄)


講評:木本圭子(審査委員長・メディアアーティスト)

「時間生物学」という誌名の学会誌のデザインの募集である。「時間」と「生物」,生物の専門家でなくとも,興味を抱かない者のないキーワードが2つも入っている。そのためか日本全国(北海道から九州まで)から年齢,職業様々な方々から多くの作品を送っていただいた。

 さて,「時間」にはクロノスとカイロスという2つがあるとギリシアの時代には認識されていたそうである。クロノスは均等に進む時計(クロック)であるが,もうひとつ複雑多様な得体のしれない時間としてカイロスという概念がある。
 「生物」というとき,対象と観察者とは完全に分離できるのだろうか?表紙作品を送っていただいた方々のコメントの多くは「観察者も含んだ系としての生物」を問題にしていた。観測者が分離できないとき時間は単純なクロノスだけではないのではないか?我々が生物を研究対象にするときはおのずと自身を含み時間を波打たせているのではないか?内部からの観察とは何かを問う作品が多数を占めた。
 生成,成長,接触,浸透,時刻,時計…様々なキーワードで作品が制作されている。しかし,今回は学会誌の表紙であるから,作品は「思考される作品」がふさわしい。現象の記述や記録で終わるのではなく,また造形力だけでなく「その場所にいてその時間を呼吸し,生物と観察者である自身とに通路を開き,往復反復の螺旋を踏んできた作品」を選ぶ事を心がけた。

 大賞の屋宜久美子さんの作品は,緻密で触覚的な内から増殖する充実した力と,外界との拮抗,その両者が不安定性を含みながらも確としたバランスによって相互に呼応している。作者の言葉にもあるように,生死は分割も区別もされず互いに浸透し反転を繰り返す。生物学的な死の判定を越えて生きるとは何かを問う意識を含んだ作品であり,表現力,コンセプト共に大賞にふさわしい作品である。
 準大賞の三上嘉啓さんの作品は,生物の組織のように複雑に絡んだリズミカルな構造が,柔らかくかつ強靭に描かれている。その細部まで1つの神経の緩みもない作品は,まるで作者自身が生物組織の一部になって自身と世界の区別なく生と接触し愛おしんでいるようだ。
 優秀賞の上田亜矢子さんの架空の生物,本間商人さんの有機的なガラスの造形共に,生命現象への深い観察から自身の問題を抽出し,人工的な素材や技法へと転換する操作が施されている。そしてその過程における様々な思考が作品に現れている。あつみけいこさんの作品は緑藻そのものであるが,これも作者の言葉にあるように人為的に見える瞬間を発見しそのときに流れる時間を問題にしている。いずれも自然科学の学会誌の表紙に使わせていただきたい作品であった。よって選考は難航し,日本時間生物学会デザインコンペ担当委員との長時間にわたる論議を必要とした。また,入選の黒川徹さん,村山智美さん,池上淳さん,野下悟司さん,今井路子さん,伊佐皆子さん,いずれもオリジナリティに溢れ審査員の死角を突いた作品群である。ただ,「表紙見開きでの使用」という意味において,若干の差があったと思われる。

 応募いただいた作品は,いずれも審査メンバーの予想を越えた力作,奇作,問題作であり,審査では時間,生物,自然科学,表現へ向かう,真摯な個人と時代の問題を改めて多層的に認識させられるカイロスの時が流れた。

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